季節の刻
杉田 明彦 -漆-
板室温泉大黒屋では、2021 年 3 月 4 日 (木) より 3 月 29 日 (月) まで、杉田明彦展を開催いたします。石川県・金沢にて漆の器を中心に制作する漆工 杉田明彦は東京都出身、大学で文学部の哲学科に進むが「手に職をつけたい」との思いから手打蕎麦店での修業後、2007年に輪島の塗師 赤木明登氏のもとで修行。6年間の修行の後2013年に独立しました。
杉田のうつわは、古い物がもつ質感、時間の佇まいから着想を得、自身の作品に反映させています。漆器は元来、お正月やハレの日などのお祝い事で使用されてきた為、『ハレの器、もてなしの器』としての役割を担ってきた感があるが、杉田は日常で使用することをより想定して制作しています。マットな質感にすでに傷のような表情(古い土器のような)を持つ作品等にそれが見てとれます。また、作品を制作する上で現代の住居、生活の変化からも漆の受け入れ方も変わると言います。昔は現代のような電気、蛍光灯、LEDの明かりではなく、蝋燭の灯、自然光の微弱な明かりのなかでの生活が日常でした。その中で艶のある漆器が当時の生活のなかでは特別であり、マッチしていたのだろう。しかし現代の電灯の明るさでは、その漆器は輝きすぎて浮いた存在に写ってしまうことや、テーブルと椅子の生活様式での目線の変化もあることなどから高台の高さ等にも工夫を凝らす制作を続けています。
漆の伝統を重んじながらも、現代の生活に違和感のなく使用できる漆器を考えて制作を続ける杉田の作品は、日本の和食料亭、またフランス料理の巨匠、アラン・デュカス氏のパリのレストラン等でも使用されています。和食でも洋食でも違和感なく、また普段使いから特別な日にもフラットに、使えて、その上またそのまま飾っても楽しめる漆器だと思います。
本展ではお椀、飯椀、折敷、リム皿、盛り皿など和、洋どちらにも使える多様な器と、乾漆で作られた大型の器、そして漆の質感など、うつわでは表現できない平面、立体オブジェ作品など全300点以上展示いたします。この機会にぜひご高覧いただけたら幸いです。